劇は架空の島、モルビアンより始まる。
暗い舞台の上には、うっすらと城の背景が浮かび上がっている。ボロボロで、あちこちに農機具が放り出されている。貧しさを感じさせる城だった。
やがて、ぽつりと点いたライトに照らされ、舞台袖から最初に姿を現したのは、主人公マキシミリアンの妹、ルビィ扮するイレンヌだ。
「ああ、美しさって長持ちしないわ。パーティのお酒と同じ。すぐになくなるものなのね」
軽やかな声で、ルビィは演じる。やがてもう一つのライトが、中央部分を照らした。するとそこには、山のように積まれたプレゼントと花束があった。
イレンヌはそちらをちらりと見た。
「わたしが生まれた時なんて、初めての娘だって喜んでくれていたわ。でも、その後あんなにまだ生まれるとは、誰も思わなかったでしょうね」
彼女が目を離したすきにライトは瞬く間に消え、次に見た時にはプレゼントも、花束も全部消えていた。
…あーあ、今はもうないわ、昔の話よ、とでも言うように、落胆して肩を落とす。
しばらくして、舞台でいくつもの足音が響き始めた。彼女の弟たちが走り回っているのだ。
不意に、舞台が照らされた。
眩しいほどの舞台の上には、ルビィと、弟役たちが集まっている。彼らは代わる代わるささやき合う。
『モルビアン島は北の国境の果て。岩だらけの険しい島だけど、銀だけはざくざくとれた!』
『モルビアン島は祝福を受けた島。そう大陸の人々はうらやましがっていたけれど、それも昔の話。ある日突然地の底の金庫が空になるとは、誰も思わなかっただろうね』
弟役に扮するのは、ブランクやマーカス、シナ達だった。彼らは思い思いの場所で忍び笑ったり、走り回ったりしながら演技を続ける。
「ああ、美しさって長持ちしないわ。幸せだってそうよ。パーティのお酒と同じ。すぐになくなるものなのね」
イレンヌが最初のフレーズを繰り返す。
…観客達は、既に物語に引き込まれていた。
こうして、長い物語が幕を開けた。一幕一場が終わり、物語はするすると心地よく、観客に魔法をかけていった。