自宅主人公・日暮白夜。綾辻探偵事務所三次創作。
鍵介×主人公。夫婦設定注意。
「君に一生のお願いを」 のおまけ。
* * * * *
「ねえ鍵介」
眞白は、唐突に鍵介にそう声をかけた。
「なに?」
狭いリビングで雑誌を読んでいた鍵介は、不思議そうにそう返す。鍵介の目を真っすぐに見て、眞白は嬉しそうに微笑んだ。そのまま、眞白の手が棚の上に伸びて、その上に置いてあったインテリアをそうっと手に取る。そこには、いつだったか鍵介が送ったガラスの靴が置いてあった。
同棲し始めてすぐくらいに、確か何かの記念日に鍵介が贈ったものだったはずだ。眞白はそれをずっと大事にしていて、定期的に磨いているのをよく見かけた。
「これは、一生の宝物なの」
ことあるごとにそう言って、愛おし気にそのガラスの靴を見つめているのが印象的だった。
「これ、あげてもいい?」
だから、そう言われて素直に驚いた。
「え。でも、それ……」
気に入ってるんじゃないの、と言いかけた鍵介に、眞白は笑顔で首を横に振る。
「今すぐじゃないよ。もう少し先の話だけど」
話が見えないまま、鍵介は不思議そうに首をかしげた。眞白はといえば、やはり笑顔で、何がそんなにおかしいのかくすくすと声をひそめて笑う。彼女はそのまま鍵介の隣に座り、甘えるように頭を肩に預けて続けた。
「この子が、お嫁に行く日がきたら」
片手はガラスの靴を乗せて、もう片方は自然に、自分のお腹の辺りに置く。暖かい。自分の体温と、もう一つ、別の命の体温がそこには生まれている。
ね、と念押しするように言うのと、鍵介がその意味を理解するのはほぼ同時だった。