自宅主人公・神谷奏太。
主人公×鍵介。エンディング後、同棲している設定。
2017鍵介誕生日記念。
ふと、鍵介は目を覚ました。何かの物音で起きてしまったとか、寒さだとか、そういう目覚めではない。ただ、ふと意識が浮上していくような、自然な覚醒だった。
「………………」
素肌にはシーツの柔らかな感触と、人肌のぬくもりが触れている。
きもちいい。素直にそう思って、そのぬくもりの元を辿って目線を上げた。そこには、鍵介を抱えるように抱き寄せて眠る奏太がいる。
目を伏せた彼の睫毛は長く、形のいい唇は薄く開いて、規則正しく寝息を立てていた。何一つ身に着けず、無防備に寝姿を晒している奏太は、なんだかいつもよりずっと幼く思える。
思わず身じろぎしそうになって、止めた。自分が起きてしまったからと言って、眠っている彼を起こしてしまうのは気が引ける。まるで大事な宝物を守るように鍵介を抱え、奏太はその体温で鍵介を閉じ込めていた。
仕方がなく、一人、考え事を始めた。眠り込んでしまう前のことを思い出す。
恋人同士の二人が、こんな姿で同じベッドにいるのだ。起こったことは明白であり、自明だった。それでも顔が熱くなってしまうのは、それが初めてのことだったからだ。
「(先輩、嬉しそうだったな)」
鍵介を優しく組み敷いて、頭上で安心したように微笑んだ奏太を思い返す。
鍵介が確かにそこにいることを、何度も確かめるように、ゆっくりと触れられたこと。まるで初めてのときのように、甘く優しく口付けられたこと。その掌が、鍵介の髪を何度も撫でては褒めたこと。
『鍵介、好きだよ。大好きだよ』
好きな人に求められる快楽に朦朧としながら、何度も何度も、そう囁かれたこと。そして――謝ろうとした奏太の口を、鍵介の唇が塞いだことも。
『好きになってごめんね』
と。そう言おうとした彼の口を塞いだ。そのまま、その言葉ごと吸い込み、飲み込んでしまいたかった。
間違いなんてない。奏太も鍵介も間違えてなんかいない。こんな関係になることを望んだのは二人ともで、こんな風に求めることを許したのも、二人ともだ。
もしも何か間違いがあったのだとしても、それは二人ともの間違いだ。だから、奏太だけが謝るのは間違っている。
鍵介の行動に、表情に何か感じるものもあったのだろうか。奏太はそれ以上、謝ろうとはしなかった。代わりに更に強く求められて――気付いたら、眠り込んでしまっていた。
『メビウスにいた頃より、今はずっと……その、僕の方の執着が強いから、無理させるかも』
こんなことになる直前、奏太が困ったようにそう忠告したのも、ついでのように思い出す。
奏太は、普段からある事情で欲望や感情を抑えることを意識し続けている。それだけに、いざ感情を表に出すとなると、色々と不安があるらしい。しかし鍵介だって男だ。そう簡単に壊れたりはしないのだし、と押し切った。結果、気を失ったらしいので、そこは少し悔しい。
「……ん……」
そのとき、耳元で奏太が声を漏らした。あまり動かないようにしていたつもりだが、微かな振動で起きてしまったらしい。瞼がゆっくりと開いて、その長い睫毛の向こうから灰色の瞳が見える。
「けんすけ」
寝ぼけた甘い声で名前を呼ばれ、見つめられる。なんだか居心地が悪くて、鍵介は視線を逸らした。
「すみません、起こす気はなかったんですけど」
「ううん……そろそろ起きなきゃ」
直前に思い出した悔しさを引きずって、声が硬いのは鍵介自身にもわかった。奏太はまだ頭が働ききっていないのか、全く気にもしていない様子で答える。そして、鍵介を抱きしめたまま、視線だけで時計を確認したようだった。
「まだ、夜中ですよ」
鍵介が奏太の腕の中から、奏太を見上げる。時計から鍵介に視線を戻した奏太と、目が合った。奏太は悪戯っぽく微笑んで、もう一度鍵介を強く抱きしめ直した。
「そう。だから起きなきゃって」
鍵介の髪を、その指が優しく梳いていく。鍵介の頭の形を確かめるように、ゆっくりと撫でていく。肌と肌が重なって、あたたかい。
鍵介が感じているこのあたたかさを、奏太も感じてくれているだろうか。心地いいと思ってくれているだろうか。これ以上重なれないほど近くで重なった胸の奥で、脈打っている鼓動が愛おしいと、感じてくれているだろうか。
「誕生日おめでとう、鍵介。……僕を好きになってくれて、ありがとう」
耳元で告げられたその言葉に、頷く。奏太はそんな鍵介を、やはり優しく抱きしめた。
二人そのまま、重なった時計の針と同じように肌を重ねて、再び眠りに落ちていく。