花村×主人公。
#花主創作60分一本勝負。2015年陽介誕生日記念。
* * * * *
「はい、誕生日おめでとう、花村」
その日の朝、相棒はそう言って、小さな包みを俺に差し出した。
六月二十二日。相棒がこの町にやってきたのが四月の初めだから、まだ俺とこいつは出会って数か月ということになる。色々あって、お互いを「相棒」と呼ぶ間柄になったのだから、決して余所余所しい関係ではない。が、さすがにこの短期間で誕生日を覚えていてくれるとは……もっと言うなら、プレゼントまで用意してくれるとは……思っておらず、俺はしばらくぽかんと立ち尽くしてしまった。
「え、マジで? うわ、ありがとな。俺、今日だって言ってたっけ?」
「この間、自分でもうすぐ誕生日だって言ってたよ。クラスの子に聞いたら、今日だってわかったし」
なんという情報網。そして俺自身、いつ話したか覚えていないようなことを覚えてくれていた。そのことが無性に嬉しい。
本人は「たいしたものじゃないけど」なんて言っているが、大したものじゃないわけがないし、何よりこういうのは気持ちが大事だ。
「ほんとにサンキュ。良かったらお前のも教えてくれよ。誕生日、いつなんだ?」
「え?」
だから何かをいつか返したくて、プレゼントを受け取ったあとにそう尋ねた。
もう過ぎてた、なんてことになってたら悲惨だが、どうやら相棒の反応を見る限り違うらしい。……というか、あからさまに目を見開いて、びっくりしてる?
そして今度は困ったように眉根を寄せて、うーん、と考え込んでしまった。何か、悪いことを聞いてしまっただろうか。
「ど、どした? なんか俺、まずいこと聞いた?」
「いや、全然。そうじゃなくて、その」
恐る恐るそう尋ねると、鳴上は本当にすまなさそうにこう言った。
「覚えてないんだ」
「……………………………」
思わず、はぁ? と言いそうになったのを堪えた俺を褒めてほしい。
覚えてないって、自分の、誕生日を?
「お、おいおい、誕生日だぜ? 親のとかじゃなくて、自分の」
「うん」
こくり、とやはり困り顔で相棒は頷く。
「うんって……小さい頃とか、誕生祝いしてもらっただろ?」
「両親は昔から忙しかったから、あまり記憶にないんだ。すごく小さいころには、祝ってもらったかも知れないけど。さすがに両親に聞けば教えてもらえると思うから、今度聞いてみるよ」
ごめん、と小さく呟いたのが聞こえた。
……いやいや、なんで謝らせてるんだよ、俺。そもそも相棒に何か返したくて、喜んでもらいたくて聞いたことなのに。
「…………わかった。じゃあこうしようぜ」
何か喜んでほしくて、何か出来ることはないかと考えた。
「俺、今日からお前に一日一回、おめでとうって言うわ」
「……え?」
今度は、鳴上が「はぁ?」というような表情をした。
「だって自分の誕生日、わかんないんだろ? だったらちゃんと分かるまで、お前は毎日誕生日。何でもない日も誕生日」
そう言う俺に、鳴上は今まで見たことのないような、狐につままれたみたいな顔をして俺を見つめていた。
ああ、そういう表情も悪くないな。いつでも冷静なビターマイルドより、ずっといい。
「お前がちゃんと、自分の誕生日を教えてくれたら止めるから」
毎日言われるのが気恥ずかしかったら、さっさと教えろよと釘を刺す。
「じゃ、とりあえず。おめでとう、鳴上」
今日は二人でお祝いしようぜ。