自宅主人公・日暮白夜。
鍵介×主人公。
とても短い。
「いつまでこうしていられるだろうね」
白夜はささやかな声で言った。消え入りそうな、蛍が舞うような、川のせせらぎのような声だった。
鍵介はその声に応えるように顔を上げ、白夜を見やる。白夜は持っていた文庫本を閉じ、窓の外を見ている。
外は今日も快晴だ。メビウスでは雨も降らないし、嵐も来ない。いつも晴れやかで穏やかな気候が続いている。この世界は常に優しく、善良で、満たされている。
「さあ……いつでしょうね。僕らが現実に帰るまで、でしょうけど」
鍵介に答えを求めたのかは分からなかったが、とりあえずそう答えた。自分でいうのもなんだが、面白みも何もない、気の利かない答えだった。
白夜は小さく、頷いたように見える。
「そうだね……いつか、現実に帰って……鍵介とこうしている時間も、終わるんだ」
白夜の顔はずっと窓の方を見ていて、表情をうかがい知ることは出来ない。ただ、その声は酷く平坦で――不自然なほどに平坦で。必死で、揺れる感情を抑えているように感じるのは、鍵介の自惚れだろうか。
「笑って、終われると、いいな」
平坦な声で、白夜は終わりを語る。
どんな物語も始まれば終わる。もう半分以上読み進めてしまった文庫本を手に、白夜は今度こそ、寂しさの滲む声で続けた。
「この世界と、みんなと……鍵介と、やさしいさよならをして、終われたらいい」
しかしこの世界の終わりを語る彼は、言葉と対照的に、酷く弱々しい。
まだ眠っていたいとぐずる子供のように。