ジョシュアとマキシミン。
カルディがいなくなってからの話。
そいつは誰が見ても誰が聞いても一流の俳優で、いつでもどこでも完璧な演技が出来る馬鹿みたいな才能の持ち主だ。
たいていの人間は、奴が笑っていようが泣いていようがその本心を見抜くことなんて出来ないし、何を考えているかも分からないだろう。どこからどこまでが演技で、どこからどこまでが本当なのか、見ているだけじゃ判断が付かなくなってしまう。
「………………」
その日もジョシュアはネニャフルで割り当てられた自室で、ぼんやりと立ちつくしていた。俺が入り口から入ってきたことにも気付かずに(あるいは気付いていても反応も見せずに)、ぼんやりと、虚空を見つめていた。
「何してるんだ」
わざと不機嫌そうに声を掛けると、ジョシュアはゆっくりと顔を上げ、薄く笑いながら答えた。
「別に。少し考えていただけだ」
「何を」
曖昧な答えを返すジョシュアに、間髪入れずに問い返す。ジョシュアは少し困ったような顔をしたが、また腹立たしいほど綺麗な笑顔を浮かべて続けた。
「カルディはもういないんだなって」
今度は言うべき言葉が見つからず、言葉に詰まった。
ジョシュアはそんな俺を一瞥すると、また微笑んで虚空を見つめる。
ジョシュアが何を考えているのか、何を思っているのか。演技が馬鹿みたいに上手い奴の本心を読みとることは難しい。
でも、こういうときはすぐに分かる。こんな風に、腹立たしいほど綺麗な笑顔を浮かべる時は、死ぬほど悲しいときだ。
死ぬほど悲しいときや死ぬほど苦しい時に限って、コイツは死ぬほど綺麗に笑うのだ。
それに気付くたびに苛々した。腹立たしかった。
笑うくらいなら泣け、と、この馬鹿に言ってやりたかった。