琵琶坂×主人公♀。
カリギュラOD発売記念イベントお疲れ様でした!
生アテレコのシナリオがめちゃめちゃ素敵だったのでつい。
なんでも許せる人向けです。大人のキスまで。
琵琶主前提、あの場にいたのが女主人公ちゃんだったらverです。
とにかくさっきまで大変だった。
帰宅部の食事会兼懇親会と、楽士の歓迎会がダブルブッキング。これ自体がまずいけない。
「じゃあ隣の部屋でやってあなたが行き来すればいいわ」なんてソーンの言葉に乗せられた私。これが次にいけない。
しかし、実際に起こったことは、もっと、もっともっと大変だった。
帰宅部はμが「ちょっとだけ」と解禁したアルコールで『大人』二人が泥酔。楽士側も叫ぶわ喧嘩するわ泣き出すわの大混乱。
両者の混乱を収めようと奔走してはみたが、最終的には自分が混乱しすぎて、帰宅部部長の姿のまま、楽士の部屋に飛び込んでしまった。
あとに起こったことは想像に難くない。
「ていうか、決定打は私のミスか……」
私は大きくため息を漏らす。
帰宅部と楽士の想定外大乱闘がなんとか収拾したあと、μに頼んで両者の記憶は綺麗さっぱり消して貰った。
ついでに酔っ払っていたメンバーの酔いも冷ましてくれと頼んだのだが、そこはμ。
「なんで? オサケって、呑んで酔うと楽しくなれるんでしょ? せっかく楽しい気分になってくれたのに、どうして戻すの? なんで?」
と純粋な目で返されて、説得にはかなりの時間を要しそうだった。
結局、「μには私が言って聞かせるわ」というソーンの言葉に甘えて、私は帰宅部の部屋へ戻ったのである。
待っていたのは泥酔状態の『大人』ども……笙悟と琵琶坂先輩、そして、その処理に右往左往する美笛ちゃんと鈴奈ちゃんの姿だ。彩声は部屋の隅っこでひたすら「これだから男なんて男なんて男なんて」と繰り返していた。
笙悟は酔ってるわ吐くわで体調不良のフルコース。当然一人で歩けるわけがなく、なんとか体裁だけ整えて、美笛ちゃんと鈴奈ちゃんに任せた。
彩声は精神的にも相当来ていたので、そのまま帰宅させる。
ということは、残る私はもう一人の『大人』の処理係だ。
「先輩、琵琶坂先輩、立ってください」
肩に手を乗せて何回か揺すると、琵琶坂先輩は機嫌悪そうな目をこちらに向けてきた。
「……うるさいな、わかってる」
「わかってるなら立ってください。先輩は立てるでしょう」
酔いつぶれた二人の他は、全員女子なのだ。簡単に支えたり抱えたりは出来ない。歩ける人は歩いて帰って貰わなければ困る。
しかし琵琶坂先輩はいっこうに立ち上がる気配が無く、そのまま座り込みを続けていた。
……まったく、なにがミスターパーフェクトだ、手のかかる……
「先輩、頼みますから自分で……っ?」
「うるさい」
仕方なく琵琶坂先輩の手を握り、無理矢理立たせようと引っ張ったそのとき、逆に強く引っ張り返されて、私はバランスを崩した。そのまま畳の上に引き倒され、背中と肩を強かぶつける。
「いっ、た!」
鈍痛に思わず目を閉じた。直後、ぐっ、と肩が畳に押しつけられる感触がして、呻く。
何するんですか先輩、そう文句を言おうと、痛みが和らいでから顔を上げ――
「何を隠してる?」
鋭利な刃物のような、その視線に刺された。
肩を押さえつけられ、覆い被されて、見下ろされている。猛獣が獲物を捕らえ、捕食する寸前の体勢だった。
このタイミングでやっと理解が追いつく。……ああこれ押し倒されてるのか。
これ、もしかして琵琶坂先輩に謀られたやつか。μが記憶を消したはずだけど、琵琶坂先輩は妙に鋭いし、元々私を疑っていた可能性はある。
Lucidの正体が、帰宅部部長の私だということに。
「隠すって、何、を……いっ……!」
白を切れるかとそう言ってみたが、さらに体重をかけられただけだった。骨が軋む。この人は相手が女だからって手加減はしない。太陽神殿の一件でそれはわかっていた。
「おいおい、まさかまだとぼける気か? まさかあの状況で、僕が気付かないとでも?」
私を見下ろす鋭利な目が、ゆっくり細められる。そして、口角が上がって笑みを形作っていった。
私の肩をしっかりと押さえてのしかかり、動けなくして、ゆっくりとその顔が近づいてくる。甘い香水の香りに混じる、アルコールの匂いに、私まで酔いそうだ。
今度こそ血の気が引く。これはまずい。本当にバレ――
「やっぱり男がいるんだろう」
……………………。
そして次の瞬間、頭の中が真っ白になった。
「……はあ?」
口から出た声は完全に素のもので、自分でも間が抜けているなと思う。
「落ち着かない素振りで部屋を出ては戻ってきて、あんな態度で僕が気付かないとでも思ったのか? だとしたら間抜けだな」
しかし琵琶坂先輩の方は、完全に私の反応など見えていないようだった。キスでも出来そうな距離のまま、私にそうまくし立てる。
やっぱりこれまだ酔ってるし、記憶も綺麗に……いや、綺麗には消えてないにしても、重要なところはちゃんと消えているようだ。
心配して損した……
とりあえず、私は頭上でわめく琵琶坂先輩の言葉を聞き流しながら、安堵のため息をもらした。
「おい、聞いてるのか」
「はいはい、聞いてますよ」
また不機嫌そうな琵琶坂先輩の声がしたので、私も生返事を返した。酔っ払いに何を言ってもしょうがない。落ち着くまで待って、落ち着いたら引きずってでも連れて帰るか。
そう考えたその次の瞬間、琵琶坂先輩が私の顎に手をかけ、ぐい、と持ち上げた。
「嘘をつけ」
そしてそのまま、口付けられる。
「んっ!? んんっ、う!?」
半ばぶつかるようにして重ねられた唇。さすがにそのまま終わるわけもなく、すぐさま琵琶坂先輩の舌が強引に私の唇を押し開け、入り込んでくる。
ごつっ、と口内にはあり得ない硬い感触が入り込んできて、私はパニックになっていた。
息が苦しい。そう思った瞬間に解放されて、私は大きく息をする。
「せんぱ、っ……ん、ぅ」
文句を言おうと睨み付けた瞬間、二回目が来た。身体ごと体重で押さえつけられて、噛み付かれているかのようなキス。角度を変え、嬲る場所を変えながら、私の口内が隅々まで侵されていく。
長い舌で歯列をなぞられ、舌の裏を刺激されると、ぞわ、と寒気にも似た別の感覚が体中をまさぐった。
ダメだ、このままだと。
本能的にそう感じて身を縮め、逃れようと力を入れたが、それも全く許されない。
「……せっかく僕が君の顔を立てて来てやったのに、他の男のことで忙しいなんて、良い度胸じゃないか」
ようやく口付けから解放されると、琵琶坂先輩はやはり、薄く笑みを浮かべたままそう言った。しかし、目が全然笑っていない。
やばい。琵琶坂先輩が、過去最高にイライラしている。
「(なんで――いや、これは考えるまでも無く)」
普段のあの、余裕綽々な態度からは想像も付かないが。それしか考えられない。
かの有名な探偵だって言っている。『あり得ない』を消去して、最後に残ったものが、どんなに信じ難くても真実だ。
「先輩、もしかして……妬いてます?」
「うるさい」
その真実は、再び噛み付くようなキスで塞がれた。