琵琶主♀。「#恋する琵琶坂永至」というタグに滾ったので私も書いてみました。
琵琶坂先輩にめちゃくちゃ恋している部長ちゃんのお話……の、エピローグをほんの少し。
本編はこちら→「CLEAR(前編)」「CLEAR(後編)」
それから、決して短くない時間が過ぎた。
次に彼女と二人きりで話をしたのは、現実。
白い、病的なほどに白い、病院の個室だった。
「……せん、ぱい?」
たくさんのチューブに繋がれ、無機質な電子音を響かせる機械類に囲まれて、少女は浅く呼吸をしながら、琵琶坂を呼ぶ。
その目は驚きに満ちていた。まさかここに琵琶坂が現れるとは思っていなかったのだろう。
メビウスにいた頃より、年を重ねた見た目ではあるが、特徴は同じだ。毎日毎日、飽きもせずに琵琶坂を追いかけていた彼女なら、すぐに琵琶坂だとわかっただろう。
琵琶坂は少女の表情を見て、にやりと笑う。やっと、この少女の予想外のところに来られた。そう思ったら少し、気分がよかった。
「なんで、ここ……」
「僕を誰だと思ってる。これくらい簡単なことさ」
短く答え、少女が横たわるベッドの脇まで歩み寄った。
少女の身体は小さかった。メビウスで見た姿よりずっと幼く、小さく、弱々しい。吹けば飛びそうな、とはよく使われる表現だが、まさしくその通りだった。
もう、彼女の『明日』は尽きてしまったのだろう。そう直感する。
しかし、少女は笑う。メビウスで見たのと、全く同じ……苦しいのか、額には汗が滲み、呼吸も荒かったが、それでも柔らかな笑みを浮かべて見せた。
意地っ張りな女だな、と琵琶坂は思う。こんなときくらい泣けば良いのに。
……まあ、今はそんなことはいい。それよりも先に、伝えてやらなければならないことがある。
「追いついたぞ。ざまあみろ、馬鹿女」
そして、あの日。あのとき、言いたくても言えなかった、酷い言葉を彼女に投げかけた。
少女はまた、驚いたように目を見開く。
そして、あはは、と、少女は力なく声をあげて笑ってみせた。その透き通った瞳に瞼がゆっくりとかかり、くしゃり、と、表情を歪める。
それは琵琶坂が初めて見る、彼女の、泣きそうな顔だった。
「……ああ。そう、ですね…………追いつかれちゃったなあ……じゃあ、殺しときます?」
「うるさい、黙れ」
琵琶坂が小さくそう言うと、はい、と小さく返事が返る。
二人の顔が音も無く近づき、そして、少女の目じりから、やっと涙があふれ出した。
緩和条件:彼女が生きている間に追いつき、言葉をかける(緩和済み)