笙主♂。エンディング後、同棲している設定です。
文字スケブにて書かせて頂きました。
「無理はしなくていいから」
「……あぁ」
律はその返事を聞いて、笙悟に聞こえないように、小さくため息を漏らした。何か、続けて言うべきことはある気がしたが、結局、それ以上何も言えずに黙り込む。
……笙悟の返事はいつも生返事ばかりで、どうにも信用できない。
メビウスを出てからしばらくして。半ば律が押し切る形で始めた同棲生活も一か月が過ぎた。
「わかってんのかお前……俺働いてねぇし、迷惑にしか」
「ならなくない。俺が笙悟と一緒にいたいの。社会復帰も、もちろん応援するから」
『だから、ずっと一緒にいさせてほしい』
律自身からしても、かなり直球の告白だった。けれど律のこれは紛うことなく本心だったし、これくらいストレートでないと、きっと笙悟には伝わらない。
「……わかった。でも、できる限り早く、仕事は見つけるようにするから」
そして笙悟は律の「応援する」という言葉に、最後は折れてくれた。要は律の粘り勝ちだ。
……それは良かったのだが。
「(それがプレッシャーになってるんだよなぁ、明らかに……)」
心配そうな視線で見つめる先で、笙悟は、今も就活の情報誌やネットと睨めっこを続けている。
やる気があるのはいいことだ。いいことだし、応援する、と言った立場からも、それを止めることはしたくない。
しかし同時に、律としてはそこまで思い詰めて欲しくはない。……それに、せっかく同棲にこぎ着けて、四六時中一緒にいられるようになったのに、これでは本末転倒だ。
『ずっと一緒にいたくて』、あんなに一生懸命告白したのに。
「なぁ、笙悟」
「ん、どした」
また生返事だ。正直寂しい。
返事をするだけで、視線さえ律の方には向けてくれない。
こっち向け。
「……もう俺んとこに永久就職する?」
そんな気持ちでそう言った瞬間、やっと、笙悟が弾かれたように雑誌から顔を上げ、律を見た。
顔は、耳まで真っ赤だった。
「お前……そういう冗談はやめろって」
本気にしたらどうすんだ、と、ちょっと怒ったような、照れたような言葉が付いてくる。
それが可笑しくて、でもやっと構ってもらえて嬉しくて、思わず律は声を上げて笑ってしまった。
「あはは、ごめんね。でも」
……あながち、冗談でもないのだけれど。