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Practice

Posted in Caligula-カリギュラ-, and テキスト

琵琶主♂がキスするだけ。部長=小鳥遊和詩です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……すまない、もう一度言ってくれないか」
 思わず、琵琶坂はそう問い返す羽目になった。
「うぇ!? な、なんで……!?」
 目の前の少年は……帰宅部の部長・小鳥遊和詩はそういわれるなり大げさに取り乱して視線をさまよわせるが、やがて観念したように先ほど口にした言葉を繰り返す。
「き、キスしたいんだけど……ですけど……?」
 語尾を丁寧語に言いなおそうとして失敗したのは、動揺の表れか。どれだけ緊張しているんだと少しほほえましくなってしまう。
「珍しいじゃないか。僕とのキスは怖いんじゃなかったのかい?」
 言いながらも、そっちがその気ならと琵琶坂は彼のおとがいに手をかけ、値踏みするようにその目を見つめる。
 琵琶坂はこの目が好きだ。人間というより獣の性質を強く孕んだ瞳だと、初めて会ったときから思っていた。じっとこちらを見上げる仕草も、恋人のそれというよりは純真なペットのようだと感じる。
 まあ、簡単に愛玩動物に成り下がるようなたぐいの獣ではないのだが、それについて思いを馳せるのは次の機会だ。
「そりゃ最初は怖かったよ……ってか、そっちも無理やりだっただろうが! ちゃんと心の準備すれば、怖くないし」
 やんちゃな子供のような様子でそういって見せる和詩に、思わず笑みを深くしてしまう。
「ふうん。怖くないなら、逆に今はどんな気持ちなのかな?」
 焦らすようにゆっくりと唇を近づけながら、互いの吐息がかかる位置でぴたりと停止する。じぶんを惹きつけてやまないあの目を視界一杯に焼き付けた瞬間、思わずゾクゾクと背筋に寒気のようなものが走った。
「てめー……性格悪いぞ」
「なんとでも」
 くすくすと笑ってみせると、観念したように和詩が言葉をつづけた。色気とは無縁のこの獣も、こういう時くらいは目を潤ませて恋人らしい顔をするらしい。
「キスしたい。先輩にキスされると、全部許されてるみたいで、めちゃくちゃ気持ちいいから」
 その言葉を確かに聞き届けて、ご褒美だとでもいうようにその唇に食らいついた。性急に唇を割り開き、舌を奥に滑り込ませる。
「んっ……ぅ……」
 捕らえた瞬間、瞳の色が変わる。ヒトのそれから、獣の目へ。
 本当に色彩が変化するわけではない。視線の温度とでもいうべきなのだろうか、とにかくそういうものが変わるのだ。彼は、琵琶坂とキスすると自分のそういった本性が表に出ると前々からおびえているようだった。だが、それゆえに許されているようだとも。
 びくりと反射的に逃げようとする体を両腕に捕らえ、きつく抱きしめる。やはりまだほんの少し怖さがあるらしい。それでも必死に顔をそらそうとせず琵琶坂を受け入れている姿はいじらしかったし、存分に支配欲をそそってくれた。
 興奮する獣をなだめるように数度背中を撫で、逃げないように暗に言い聞かせる。それに応えるようにうっすらと和詩が瞼を開けた。
「……いい子だ」
 一度解放してひとことささやくと、少年は顔を真っ赤にして視線を逸らす。その顔をまた両手で包み込み、二度目のキスを贈った。
「せんぱ、……っふ、ぅ……んんんっ……!」
 言葉を遮り、くちゅ、くちゅ、とわざと大げさな音を立てて口内を荒らす。耳を塞いでいるから、きっと卑猥な水音がひどく大きく聞こえていることだろう。
 灰色の瞳は羞恥と快楽にゆらゆらと揺れ、熱に浮かされたような色をしていた。
 敏感な場所を舌先がかすめると大げさなくらいよく反応するのですぐにわかった。もちろん、見つけるたびに丁寧に蹂躙してやる。
「んん……、……!」
 やがて執拗な愛撫に観念したように、声に色がともり、表情も快楽に溶かされたようにとろんと弛緩していく。びくびくと震える身体からも、もう逃げようとする意志は感じられない。
 腕の中の猛獣がどんどん従順になり、自分のものになっていく自己肯定感。琵琶坂の心もゆっくりと、だが確実に満たされていった。
「……っは」
 やがて互いに息を使い果たし、名残惜しむようにゆっくりと唇を離す。それでも、まだ獣の目はものほしそうにじっとこちらを見上げていた。
「続きはいかがかな」
「…………頼む……ます」
 また緊張のあまり不思議な言葉遣いで応えるぎこちない恋人に、琵琶坂はくすくすと笑いをこぼすと、その手を引いて再び腕の中に抱き留めた。