カギP×主人公。
お題:受の帰る場所を奪う攻。
男主か女主かも決めてなければ、
残滓カギPなのか裏切り鍵介なのかも決めていないというフリーダムっぷり。
ちょっとカギPがヤンデレ気味。
それは、悪夢のような光景だった。
ひとり、またひとりと倒れていく仲間を視界の端で捉えながら、何もできずにいる自分が、情けなくてしょうがなかった。
こんなはずじゃなかったのに。こんなつもりじゃなかったのに。
後悔も懺悔すらもできないまま、無力で無意味な涙ばかりが流れていく。
「ああ、泣いてるんですか。可哀想に」
悲しいことなんてもう何もないのに、と、『彼』は無邪気なトーンで言った。
「大丈夫ですよ。もう泣かなくていいんです。ずっと、この世界で幸せに生きていけばいいんですから」
ね、先輩。
そう言って『彼』は泣いている自分を抱きしめる。優しく、壊れ物を扱うかのように繊細に、腕の中に閉じ込める。
「……どうして、こんなこと」
やっと言葉になった自分の声が、そう『彼』に――カギPだった頃の鍵介に尋ねる。
この場で意識を保っているのは自分と彼だけ。自分に戦うだけの力はもう無く、残りの仲間は全員倒れ伏した。
完全な敗北。先はない。
「どうしてだなんて。僕が逆に聞きたいくらいですよ。現実に帰ったって、良いことなんて一つもないのに」
なだめるように、カギPの手が頭を撫でている。
「僕、一生懸命考えたんですよ。先輩に、どうしたらメビウスのほうがいいってわかってもらえるんだろうって。どうしたら、ずっと僕の傍にいてくれるんだろうって。それで、やっと思いついたんです」
無邪気な声で、カギPは言う。とびきりいいアイデアを思いついて、それを披露するのが待ちきれない子供のように、その表情は明るかった。
「帰るところなんてあるからいけないんですよね。現実も、帰宅部も。無くなっちゃえば、先輩は僕の傍にいてくれますよね」
カギPの、抱きしめる力が強くなる。決してここからは出さないというように、強く、固く。
ぞくりと背中を悪寒が駆ける。思わずカギPを見上げると、彼は眼鏡の向こうで、その灰色の瞳を細め、じっとこちらを見ていた。
抱きしめていた手が緩み、そのまま耳元を覆う。聴覚が鈍り、音がくぐもる。
「先輩、好きです。先輩の居場所は、ここだけですよ」
不思議と、カギPの声だけははっきりと聞こえた。