自宅主人公・日暮白夜。
鍵介×主人公。ラブカリギュラ発売記念。身長差の話。
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「やっぱり、μに身長も頼んでおけばよかった」
鍵介が唐突にそんなことを言ったのは、二人で部室に向かって歩いている時だった。
白夜はいつも通り読みたい本を何冊か抱えて、鍵介は音楽雑誌を持って。まとまった時間が取れた時はそうやって二人、部室で過ごすのが暗黙の了解になりつつあった。
「…………?」
「先輩、そんなに無邪気に『どうして?』って顔をされるとなんか困るんですが」
「俺、何も言ってないけど」
「表情でわかります」
ため息交じりに鍵介は言った。
実際には、白夜の表情は殆ど変化していない。しかし、鍵介にはそんな細かい違いも分かるようになった。それは、二人がそれくらい密な時間を過ごしてきた証明でもある。
「身長ってある程度ないと、色々恰好が付かないでしょう」
がらり、と部室のドアを開け、鍵介は続ける。本を机に置き、白夜を振り返った。白夜も後に続いて部室へ入る。
「色々って?」
「色々は、色々ですよ。……キスするときとか、相手より低いと格好悪い気がします」
言わせないでくださいよ、と少し語尾を荒げた鍵介の頬が赤いのは、夕暮れの色のせいだろうか。
白夜は少し黙り込んで、それから手に持った本をやはり机の上に置いた。そしておもむろに鍵介の前に立つと、すとん、とそのまま後ろに設えてあるソファに座る。
「はい」
そして、そう言って鍵介を見上げた。
夕暮れの光が窓から差し込み、見下ろす白夜の頬と髪をうっすら、赤く染める。
「はい、って……何がですか」
「低い方がいいって、鍵介が言ったから」
相変わらず直線的な物言いに、鍵介は「は?」と思わず声を上げた。
「キスするとき。こうすれば、俺の方が低くなる」
ね、と。少しだけ、分かりやすく白夜の表情がほどけた。
ようやく白夜の意図するところが分かって、鍵介は思わず目を見開いた。が、すぐにおかしさと愛しさがこみあげてきて、笑みを浮かべてしまう。
「先輩、色々反則ですよ」
鍵介はそう言って少しだけ身をかがめ、その白い肌に手を添えて、白夜の唇にキスを落とした。