.hack//Link。カイトとハセヲとシラバスの小話。
もし彩花部屋でイベントが発生したら。
可愛らしいポップな音楽と、暖色を基調にした家具がそろえられた部屋。
硬質感の強いグランホエールの中でも異色なその部屋は、いわゆる「彩花部屋」と呼ばれている。
「うわー、こんなのなんだ。僕初めて入ったよ」
シラバスは何故か感心したように部屋を見渡して言った。
「僕も。ブラックローズやミストラルは、結構入ってるみたいだけど」
続いて部屋に入ったカイトも、どこか物珍しそうに部屋を見ている。
グランホエール内には様々な部屋が用意されているが、いかにも女の子です! と言ったその部屋は、なんとなーく、男性陣には馴染みの薄い部屋だった。
普段なら女性陣が居るべき部屋だ。しかし、仲間が続々と増えてくるのに、資金の問題で部屋が足りないらしい。そこでトキオから「急遽。一時的に!」と彩花部屋への移動をお願いされたのだった。
相変わらずキョロキョロする二人に対し、ハセヲはつまらなそうに部屋を一瞥しただけだ。
「別に騒ぐようなことかよ。そんなに珍しいものがあるわけでもなし」
「へぇ、ハセヲは女の子の部屋に入るの、慣れてるっぽいね。なんか大人って感じ(笑)」
すかさずカイトがからかうと、ハセヲの顔がさっと赤くなる。
「なっ……別にそんなんじゃ」
「あれ? なんでそこで照れるのさ? 逆に怪しいよ、ハセヲ」
からかうように、シラバスがぽんっ、とハセヲの頭に手を置いた。
そんなんじゃねぇって言ってんだろ! とムキになりだしたハセヲを横目に、二人は部屋の中央へと移動して座り込む。
可愛いクッションにベッド。置いてある家具は殆どピンクかオレンジか。男が一人暮らしをするなら、絶対この配色はない、というような色遣いだ。
「あ、これってチムチムだよね、可愛いなー」
ふと、ベッドの上に置いてあった人形を見つけて、カイトが手に取る。
「The World Re:2」に出てくるキャラクター、チムチムの人形だ。
「ほんとだ。良くできてるなあ。そっか、カイトの時には無かったんだよね、チム玉システム」
「うん。Re:2は色々増えててびっくりだよ。チムチムもだけど、バイクとかレンゲキとかね。色々格好良くなったり、可愛くなったりで凄いなあって」
もちろん、Re:1も面白かったけどね、とカイトは笑う。
「にしても、これって蹴るんだよね? なんか可愛すぎて蹴りづらくない?」
完全に気に入ったのか、カイトは抱え込むようにチムチム人形を抱きながら言った。
「どっかのアトリが同じよーなこと言ってたな……」
「あははw にしても、カイトってそう言うの好きなんだ。女の子みたいだね。もしかして、リアルは女の子?」
「えっ!? い、いやそれは…そうかなあ、自分ではそうは思わないんだけど……」
チムチム人形の頭を撫でながら、カイトは少し戸惑う。
そう言えば、昔同じようなやりとりがあったような。会話じゃなくてメールで。
「そう言えば、ミストラルとも同じようなこと話してたなあ。あの時は好きな食べ物の話だったけど」
「好きな食べ物? ちょっと気になるなぁ。何なに?」
いっぱいあるけど、とカイトは前置きしてから、あの時のメール返信はどうしたっけと記憶を掘り起こす。
「アップルパイ。因みに嫌いなのは焼き鳥とかおつまみ系」
「えー、それは別に普通だと思うけどなあ。僕も好きだよ、アップルパイ。美味しいよね! パイ生地がサクサクしてて」
「そうそう。あ、でも案外菓子パンアップルパイも美味しいんだよね」
あのびみょーな柔らかさが……と、完全に語りモードに入ったカイトとシラバス。完全に置いてけぼりを食らっているハセヲは一人、神妙な顔つきでそれを聞いていた。
「(どっちもどっちっつーか……両方女みたいなんですけど……)」
口が裂けても言うまい、と思いつつも、妙な疑惑は晴れないのであった。
*
「じゃあ、今度二人でハセヲにクッキーを作るってことで!」
けってい! と立ち上がって目を輝かせるシラバス。おーっ、と陰でカイトも賛同しているのがなんだか怖い。
「流れおかしいだろ!? どうしてそうなった! 部屋の呪いか!? つか、俺ん家来る気かよ!? 知らないだろお前ら!」
『えっ?』
二人がきょとん、として顔を見合わせた。嫌な予感が止まらない。ハセヲは恐る恐る身を乗り出す。
「えっ……? って……えっ? 何? まさか知ってんのか!? 知ってんのか俺の住所!?」
少しの間が空いて、ぽん、とカイトがハセヲの肩に手を置いて笑った。
「何言ってるのハセヲ。僕はカイトなんだよ」
「意味わかんねぇし! でもなんとなくわかるような気がするから嫌だ!」
……余談だが、後日、ハセヲにはちゃんと「シラバスとカイトのクッキー」が届いた。
「(チートアイテム……なのか……?)」
こわすぎて食べる勇気はない、と後にハセヲは語ったという。