ランジエとジョシュア。
自由を奪われるとは。
それは唐突な問いかけで、ジョシュアはそれに何の気なしに答えただけだった。
「自分の意志がなくなる、ということについて、どう思いますか」
問いかけた人物は、紅鮮色をした瞳を興味深げに細めている。本から目を離そうともしない辺りが彼……ランジエらしいと言えるだろう。
「どう、と言われても。漠然としすぎているな」
「では、もしあなたの意志がなくなったとしたら。どうしますか。あるいはどう思いますか。体の自由を奪われるように、精神の自由を奪われるとしたら?」
ランジエは読んでいた本を閉じて、今度はジョシュアの方を見据える。
「さあ。どうとも思わないんじゃないか。意志がないならどうにも出来ないし、僕個人としてはどうとも思わないと思う」
元々この小公爵は、自分の価値とか言うものにはあまり執着しない方だ。興味がないというのも本心からだろう。
ランジエはといえば、そんなジョシュアを面白そうに見ているだけだった。
「本当に?」
やがて悪戯っぽく笑うと、ランジエはその右腕でジョシュアの手を取り、思い切りねじ上げて壁に押しつけた。
「っつ……」
「自由を奪うというのは案外簡単なものです。私のような者でも、あなたくらいなら造作もない」
突然のことに目を白黒させていたジョシュアだったが、やがて不快そうな表情でランジエをにらみつける。
ランジエは微笑う。
「ほら、どうとも思わないなんて嘘だ。そしてそういう顔をされると、」
ランジエは空いた方の手のひらで、ジョシュアの整った顔を覆う。
「どうにかして心まで思い通りにしてやろう、と、よくない考えまで浮かぶものです」
まるで、目に毒だ、とでも言わんばかりに。