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痛いのは

Posted in Caligula-カリギュラ-, and テキスト

鍵介×主人公。

* * * * *

 それは、痛みというにはあまりに弱い痛みだった。
 ぴりり、と、微かに走る電流のようなもの。意識しなければ痛みだとも認識できない。
 はっと意識が浮上する。上がる叫び声。唸り、風、剣戟。 そういえば戦闘中だった、と、白夜は我に返る。その途端、耳元に風が唸り、デジヘッドの爪が迫っていることに気付く。
 ああ、これは少し痛いかと、本当の痛みを覚悟した。しかし、その爪が白夜の白い肌に突き刺さることはなく、寸前で淡く輝く盾に阻まれる。
 「……っ、何ぼーっとしてるんですか! 捕まりたいんですか!?」
 耳をつんざくような怒号だった。響鍵介と言う名前の、この皮肉屋で少し見栄っ張りな後輩が、こんなに声を荒げるのは珍しい。
 彼は白夜の答えは聞かず、そのまま手にした大剣を振り上げる。あんなに大きな獲物なのに、まるで重さを感じさせない。それが彼の望んだ力、なのだろうか。
 やがてすべてのデジヘッドが倒れ伏したのを確認して、鍵介は不機嫌そうに白夜を振り返る。
 「ごめん」
 また何か怒られる前に、先手を打って謝った。
 「どうして怒られてるのか、またわかってないでしょう」
 しかし、後輩の怒りは収まらない。
 「……戦闘中に、ぼうっとしてたから」
 そう続けると、鍵介は明確に痛そうな顔をした。
 「どうして、あなたが戦闘中に呆けていると、僕が怒るのかはわかりますか」
 もう一度尋ねられて、少し逡巡した。
 「迷惑だから?」
 鍵介が眉を寄せる。
 痛い。痛い、痛い。そういう顔だ。
 彼には傷一つついていないのに、どうしてそんなに痛みをこらえているような顔をするのか。
 唐突に、鍵介の細い指先が白夜の頬に伸びてきた。指先がそっと触れると、微かに痛みが走る。
 それは、痛みというにはあまりに弱い痛みだった。
 ぴりり、と、微かに走る電流のようなもの。意識しなければ痛みだとも認識できない。
 「……早く、傷の手当てしてください」
 そう言った指先に、わずかな赤が乗る。ああ、少しかすっていたのかと、ぼんやり考えた。