鍵介×主人公。
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それは、痛みというにはあまりに弱い痛みだった。
ぴりり、と、微かに走る電流のようなもの。意識しなければ痛みだとも認識できない。
はっと意識が浮上する。上がる叫び声。唸り、風、剣戟。 そういえば戦闘中だった、と、白夜は我に返る。その途端、耳元に風が唸り、デジヘッドの爪が迫っていることに気付く。
ああ、これは少し痛いか――と、本当の痛みを覚悟した。しかし、その爪が白夜の白い肌に突き刺さることはなく、寸前で淡く輝く盾に阻まれる。
「……っ、何ぼーっとしてるんですか! 捕まりたいんですか!?」
耳をつんざくような怒号だった。響鍵介と言う名前の、この皮肉屋で少し見栄っ張りな後輩が、こんなに声を荒げるのは珍しい。
彼は白夜の答えは聞かず、そのまま手にした大剣を振り上げる。あんなに大きな獲物なのに、まるで重さを感じさせない。それが彼の望んだ力、なのだろうか。
やがてすべてのデジヘッドが倒れ伏したのを確認して、鍵介は不機嫌そうに白夜を振り返る。
「ごめん」
また何か怒られる前に、先手を打って謝った。
「どうして怒られてるのか、またわかってないでしょう」
しかし、後輩の怒りは収まらない。
「……戦闘中に、ぼうっとしてたから」
そう続けると、鍵介は明確に痛そうな顔をした。
「どうして、あなたが戦闘中に呆けていると、僕が怒るのかはわかりますか」
もう一度尋ねられて、少し逡巡した。
「迷惑だから?」
鍵介が眉を寄せる。
痛い。痛い、痛い。そういう顔だ。
彼には傷一つついていないのに、どうしてそんなに痛みをこらえているような顔をするのか。
唐突に、鍵介の細い指先が白夜の頬に伸びてきた。指先がそっと触れると、微かに痛みが走る。
それは、痛みというにはあまりに弱い痛みだった。
ぴりり、と、微かに走る電流のようなもの。意識しなければ痛みだとも認識できない。
「……早く、傷の手当てしてください」
そう言った指先に、わずかな赤が乗る。ああ、少しかすっていたのかと、ぼんやり考えた。