自宅主人公・日暮白夜。
鍵介×主人公。
* * * * *
それは天から降る万能の糧。
いつか僕らが約束の地に辿り付くときまで、過不足なく、偏りなく、万人に降り続く慈しみ。
「それは霜のように白く薄くて、蜜のように甘いんだって」
重たそうな表紙を開き、彼は口元にほんのりとした笑みを浮かべて語る。僕はそれを、向かいに座って机に頬杖をついて聞いていた。
帰宅部部長・日暮白夜は、僕の先輩で、暇があれば本を読んでいるような少年で、今日もそれは同じだった。
何を読んでいるんですかと問えば、「たぶん、世界で一番売れている本」と答えられた。
これもいつものことなのだけれど、先輩の受け答えはとても直線的でわかりにくい。それはもうしようがないので、「どんな内容ですか」と続けたら、こんな風に答えてくれた。
「人々が荒野で飢えた時、神様が空から食べ物を降らせてくれて助けてくれる話。それは霜のように白く薄くて、蜜のように甘いんだって」
……それのどこが面白いのか。申し訳ないが、僕には全くわからない。
「人々が目的地にたどり着くまで、決して飢えないように。必要な分だけ神様が与えてくれる、万能の糧」
そんなものがこの世にもあればいいのに、と、先輩は少し寂しそうに、窓の外を見た。
たぶんそれは、と言いかけてやめた。
それを認めて伝えたら、本当に先輩が「そう」なってしまいそうな気がして、なんとなくイヤだったのかも知れない。
僕らが目的地にたどり着くまで、決して立ち止まらないように。必要な分だけあなたが与えてくれる糧。
過不足なく、偏りなく、万人に降り続く慈しみ。
けれど、出来れば僕だけに降り続いてくれればいいのに。