主人公×花村。
#主花版深夜お絵かきSS書き60分間一本勝負
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その問いかけは唐突に。青空の眩しい時刻、屋上でのことだった。
「悠って好きな子いる?」
捻りも屈託もない、無邪気な問いだった。だから少し反応が遅れる。
「……なんで?」
「いや、なんとなくだよ。気になるだろ、相棒としては」
相棒。その言葉に、波紋が広がるように心が揺れた。
……そうだな、俺たち相棒だものな。
「いるよ」
心の中で自分に言い聞かせるように反芻しながら、短く答えた。すると、陽介がとても驚いた様子で声を上げる。
「へえ、そうなのか。お前に想われてるって、その子は幸せだな」
「そう思うか?」
「何言ってんだよ、当たり前だろ」
今度は陽介の表情が少し不満げになる。しかし、またすぐに得意そうな笑顔に変わった。
「お前ってば成績優秀、スポーツ万能。これは俺たち以外には言えないけど、テレビの中でだって強いしさ」
おまけに、とそこで陽介はわざと言葉を止めてから言う。
「いい奴だしな」
くるくると変わる表情が可笑しくて、でも……愛おしい。心の中が自然と暖かになる。陽介がそう思ってくれている。それだけでこんなに暖かい。うれしい。
だからこそ、それを抑え込み、舞い上がる自分を押し込めて、笑わなければいけなかった。
「大袈裟だよ。俺がそんな風に見えるとしたら、それはみんながいてくれるからだ」
陽介が、いてくれるから。そんな言葉を、「みんな」という言葉の中に閉じ込める。
「……そっか、ん、まあそう言われると、嬉しいな」
帰ってきたのは、また無邪気な反応だった。純粋な好意を受けて、同じように優しい好意を返すもの。とても嬉しく思う半面、心の底の方が針でつつかれた様に痛む。
「陽介は」
その痛みを振り払うように、こちらも尋ねようとした。
「ん?」
しかし言いかけて、その言葉を止める。陽介が不思議そうにこちらを覗き込んでいた。
好きな子いるのか? そんなこと、聞けるわけがない。この春、陽介は大事な人を失ったばかりなのだ。
「なんでもない」
「なんだよ、言いかけてやめるのずるいぞ」
まあいいけどさ、と陽介はまた笑う。そして、すっかり高くなった日差しを眩しそうに見上げてから立ち上がった。
「さ、行こうぜ。昼休み終わるぞ。そだ、今日もテレビの中、行くんだろ」
「うん。頼りにしてる、陽介」
「おう、任せろ!」
にやりと不敵に笑って、頼もしく返してくれる。踵を返し、昼食の片づけを済ませて屋上の扉へと歩き出す。その背中を見つめていた。
「陽介」
呼び止めた理由は、自分でもよくわからない。陽介は、また肩越しにこちらを振り返り、うん? と小首を傾げた。
心の中では相変わらず、小さな針がちくちくと柔らかな部分を苛んでいる。
打ち明けてしまえたらどんなにいいだろう。こんな、身勝手で不可思議で、独りよがりな感情。
「ほんとに、頼りにしてる。お前のこと。いい、相棒だと思ってる」
嘘だ。
ごめん、陽介。嘘なんだ。
「な、なんだよ、急に……そこまで言われると照れるだろーが! ……けど、サンキュ」
無邪気に。何も知らない陽介は、嬉しそうに微笑む。
それに対して、嘘をついて、ありがとうと答える自分はひどくずるい嘘つきだ。いい相棒だなんて、そんな、綺麗な。俺が思っているのはそれだけじゃないのに。
俺は、この相棒のことが、好きなのに。その細い身体を抱き寄せて、口づけをしたいと思ったことさえあるのに。
その思いを自覚した日から、ずっと嘘をつき続けている。