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こころのそこで(影村×花村)

Posted in Persona4, and テキスト

影村×花村。

* * * * *

 ジライヤは目を覚ます。
 ふ、と。意識が浮かび上がるのはいつも唐突だ。うっかりうたた寝をしていて、目を覚ます時の感覚が一番近い。
 現実世界の場合、目を覚ます理由は周りがうるさいからだったり、物音に反応したからだったりするものだが、人の意識の底である「ここ」でも、それは同じだ。
 『……またグズグズしてんのか』
 口元にうっそりとした笑みさえ浮かべて、ジライヤは呟く。そうすると、彼以外は誰もいないはずのこの場所で、うるせえよ、と少し苛立った声が返ってきた気がした。
 声は確認するまでもない、本体である陽介の声だ。それを聞いて、ジライヤはさらに可笑しそうに笑う。
 『なンだよ、ホントのことだろ? 今日はなんだよ、商店街の奴らの陰口か? バイトの横暴か? それとも、まぁた相棒に醜い嫉妬か?』
 違う、と否定した陽介の声は、しかしか細く掠れていた。
 陽介自身が一番分かっている。自分の影に隠し事なんて無意味だ。言葉に出来ることも、言葉に出来ないことも、思った瞬間共有される。だから本当は、ジライヤの問いかけさえ無意味だった。
 『……ま、いいぜ。強がりたいんならせいぜい強がれよ、俺。本音隠すのは得意だもんな?』
 ジライヤはすぐそこに陽介の存在を感じながら、余裕たっぷりにそう返す。
 ジライヤも陽介だからこそ、陽介のことは一番よくわかる。彼というのは本当に周りがよく見える青年で、見えすぎて、言いたいことを飲み込むのが得意な性分だ。
 そのせいで時々どうしようもなく空しくなったり、泣きたくなったりするくせに。
 『(いっそもう全部、壊れちまえって思うこともあるくせに)』
 やめろ、とまた小さく返事が返ってきた。ジライヤは鼻で笑って無視する。こんなことくらいで否定されたなんて思うわけもない。陽介の本心なんて筒抜けだ、本気で否定しているかどうかはすぐわかる。
 『安心しろ』
 それ以降、静かになった陽介の声に名残惜しさを感じながら、ジライヤはもう一度目を閉じる。
 『もしもお前が本気で、本音を否定したくなったら。そんな苦しい世界は、お前ごと俺がぶっ壊してやる』
 再び、心地よいまどろみがやってくるのを感じながら、彼はそう呟いた。