自宅主人公・日暮白夜。
主人公×鍵介。
楽士堕ちしたのか狂っちゃったのか、メビウスにあてられた主人公の話。
ちょっと主人公が病んでます。
「僕は先輩を置いて行ってしまうかもしれませんよ」
唐突にそんな脅しをかけてみた。なるべく声は平坦に。表情は動かさずに。努めて冷静に見えるように取り繕う。
そんな鍵介を、白夜はきょとん、として見つめ返した。
その瞳には、鍵介が期待したような感情は何一つ見えなかった。鍵介を失うかも知れないという焦り、あるいは哀しみとか、怒り。そんなものは欠片も感じさせず、白夜は微笑む。
「大丈夫だよ。鍵介はそんなことしないから」
白夜は鍵介の目の前まで歩いてきて、そっとその頬に手を伸ばす。すべすべとした、痛みを知らない指が鍵介を撫でた。
「だって、俺と離れて困るのは鍵介だろう?」
まるで、たまにワガママな子供を、母が優しく諭すような物言いだった。
お前を俺が追うのではなく。俺がお前を連れて行くのだ、という、湿度の高い熱を帯びた意思。メビウスという理想の世界を肯定した彼は、どこまでもまっすぐで、どこまでも歪んでしまった。
「大丈夫、ずっと一緒だ。ずっと一緒にいてあげる」
寒気がするほど穏やかに、白夜は言った。
――死がふたりを別つまで、と。