自宅主人公・日暮白夜。
鍵介×主人公。
2018年ポッキーの日記念。
これは、いったいどうするべきなのだろう。
「ん」
目の前に立っている白夜は、唇の間に細長い菓子……いわゆるポッキーというやつ……を挟んだ状態で、鍵介をじいっと見つめている。
「ん」じゃない。なんだ、「ん」て。何を要求されているんだ僕は。
「……………………」
鍵介が固まっていると、白夜は不思議そうに小首をかしげ、口にくわえたポッキーを指でつまんで、一旦離した。
「やらないのか」
「あのですね、先輩。いつも言っていますが、先輩は一言も二言も足りなさ過ぎて……ああもういいや」
鍵介は説明するのを途中で放棄した。白夜の言葉がストレート過ぎて伝わらないのは、今に始まったことではない。そして、今まで何回言おうと治ることはなかった。
鍵介は、他の仲間に比べて白夜と過ごす時間が長いので、まだ「なんとなく」でも白夜の言いたいことがわかるつもりでいる。
が、他の部員たちはこれでちゃんとコミュニケーションが取れているのだろうか……少し心配になる。
「で、結局何がやりたいんです、先輩は」
「ぽっきーげーむ」
白夜は表情一つ変えず、鍵介を見下ろして言い放った。
ぽっきーげーむ。ポッキーゲーム……ポッキーゲーム!?
「なんでまた!?」
「今日はポッキーの日で、ポッキーの日には『ぽっきーげーむ』をするのが決まりだって言っていたから」
「誰がです!」
「鳴子」
「鳴子せんぱァい!? 先輩に何吹き込んでんですか!」
予想はしていた。鍵介はその場ですぐさまスマホを取り出し、「鳴子先輩ギルティ」とWIREを送っておいた。
白夜は無口でしっかりしているように「見える」だけで、実は世間知らずで天然だ。おそらくだが、鳴子にからかわれたのだろう。
「そういう決まりじゃないのか」
「決まりじゃないです! からかわれたんですよ、先輩」
鍵介がきっぱりとそういうと、白夜は自分の手に残ったポッキーをしげしげと眺め、「そうなのか……俺はてっきり」と呟いた。
そして少し淋しそうな目をして、
「好きな人と、ポッキーゲームをする日だって、言ってたから」
「そっ……!」
それは、と、今度は鍵介が言葉に詰まる。
……これは。つまり。白夜は鍵介と、恋人としてポッキーゲームをしにきた、ということなのだろうか。
思わず、鍵介は前のめりになって、白夜の両肩を両手でつかむ。
ポッキーゲーム。してもいいのだろうか。この流れはもしや、合意の上で白夜とキスができる絶好の――
「……で、鍵介。ポッキーゲームって何をするゲームなんだ? くわえて待ってればわかるって、鳴子は言ってたけど」
きょとん、として白夜はそう続けた。鍵介はがっくりと肩を落とし、うなだれる。
「鍵介? どうかした?」
「いいえ……別に……」
やっぱりか。やっぱりわかってない。この流れであわよくば、と何か間違ってキスでもしようものなら、白夜に「破廉恥」だとか「はしたない」だとか言われるに決まっている。
我慢。我慢だ。耐えろ、響鍵介。こんなのでくじけていて、現実になんて帰れるか。
世の中、ポッキーほどには甘くない。