2013.10.27 COMIC CITY SPARK8発行 主人公×花村
空は、先の見通せない曇天だった。
刺すような冷たさが頬を撫でていく。雪でも降りそうなそんな寒空だ。その下にさらに濃い霧がかかって、稲羽市の夕暮れは酷く暗い。
そんな中で一日中聞き込みをしていた特捜隊の表情は、更に暗かった。
「真相は闇の中、ですが」
そう言って、白鐘直斗は苦笑する。疲れたような笑みの向こうに、悔しさが滲んでいた。天性の探偵である彼女ならば無理もない。
花村陽介はそんな彼女を横目に、この重い空気をなんとかしようと頭を悩ませていた。
稲羽市連続殺人事件。あるテレビアナウンサーの殺害から始まったこの大事件は、犯人の逮捕によって終息するだろう。いくつもの疑問点や違和感を残し、蓋をした上でだ。
しかし、いくら疑問があっても、違和感がぬぐえなくても、証拠も手がかりもなければ先へは進めない。今日、手がかりがつかめなければ、この特捜隊での捜査も打ち切ろうと決めていた。
だからこれは仕方のないこと。そう自分に言い聞かせ、ふと、陽介は隣に立つ相棒を見やる。
鳴上悠という名前のその相棒は、その時とても思い詰めた表情をしていた。
「相棒? どした?」
思わずそう尋ねたら、悠はつい、と視線を逸らす。
「……いや、なんでもない」
舞い降りる雪を見つめながら、相棒は言った。とても「なんでもない」というような顔ではない
……そのとき悠が、完璧に「なんでもない」ことを装えていれば、こうはならなかった。あるいは、陽介がもう少し鈍感で、諦めの良い方であったなら。
しかしそのどちらでもなかったために、陽介は悠が口を閉ざした後も考え続けた。そして、幸か不幸か、辿り着いてしまったのだ。
山野真由美と小西早紀、両方と接点があり、町の人間に怪しまれず、特捜隊の動きをある程度把握でき、堂島家にさえ安易に近づける人物。
「足立さん」
そう言って呼び止めたのは、まさにその翌日だった。
呼ばれたその男は躊躇う素振りも無く立ち止まり、振り返る。
「あれ、君は甥っ子君の……えーと、花村君だっけ?」
足立は人の良さそうな笑みでへらへらと笑っていた。相変わらずスーツはよれよれだし、ネクタイは曲がっているし、頼りない大人を体現しているような格好だ。
でも、この人が。
「あの、ちょっと時間もらっていいですか。聞きたいことがあるんで」
「聞きたいこと? 別にいいけど……どしたの、そんな怖い顔しちゃって」
努めて厳しく、陽介は言った。その気配を感じ取ったのか、足立もきょとん、としてから神妙に頷く。
確信などない。だから一人で問いただすつもりだった。そして当然、油断するつもりなどなかった。陽介が自分を信じるとすれば、この男こそ、この事件の犯人なのだから。