どれくらい二人して、黙り込んでいたのだろう。イザナギとジライヤはカードに戻り、二人の手に無事戻った。
「ほんと、お前は、すごいやつだよ……」
長い沈黙の後、先に口を開いたのは陽介だった。先ほどまでの激情は嘘のように身をひそめ、声には疲れが濃く滲んでいる。
「ありがとな、相棒。んで、悪かった……ひでーことばっか言ってさ」
少しでも言い淀むと怖じ気づきそうで、陽介は一気にそう言った。理性を取り上げられていても、自分が何を言ったか、何をしたかは全部覚えていた
「うん、たしかに酷かった。おまけに痛かった」
「いや、その、本当にスミマセンデシタ……ディアラマさせてイタダキマス……」
悠に冗談めかして返されたので、陽介も冗談めかして頭を下げることが出来た。すぐにジライヤを喚んで悠の傷の手当ても始める。
また暫く沈黙が落ちた。陽介は、ぽつりぽつりと言う。
「……お前といると、苦しいよ」
「うん」
悠は短く、頷いた。
「心の中ぐちゃぐちゃにかき回されて、余計わかった。お前といると、自分がすごく小さく見えて、取るに足らない奴だって思えて、苦しくてしょうがない」
淡い治癒の光を浴びながら、陽介は眉間にしわを寄せ、もう一度その本音を吐き出した。ただ、心は驚くほど凪いでいる。
「でも、好きなんだ」
嫌いにならせてくれ、と懇願するくらい。好きでしょうがなくて、その思いも衝動も抑え切れないのだった。
自分は、傍にいることを恐れるほどにこの男を愛し、いっそ憎むくらいに恋している。
「それでも、お前の傍にいられるのが、嬉しいんだよ、な」
「……うん」
悠はまた頷く。悠の手が陽介の頭の後ろに回り、もう片方の手が強く抱きしめる。陽介は驚いたように身を固めたが、それだけだ。
「俺も好きだよ。陽介のこと、どうやっても諦められないくらい」
昔から、諦めは良い方だった。友達とおもちゃの取り合いをしたこともなければ、記憶に残るほどの喧嘩をしたこともない。親でさえ、自分をもてあましているな、と感じたら、独りでも大丈夫だと嘯けるほどに。
でも、陽介を諦めろと言われたら、絶対に受け入れられないと思った。
「俺は、陽介の欲しいものを全部持ってるって、陽介は思っているかも知れない。でも、俺が欲しいものは、陽介しか与えられないんだ」
陽介の頬をそっと、優しく両手で包む。少し照れたように視線を逸らすその表情が、愛おしくてたまらなかった。
たとえ、陽介が自分の傍で、どれだけ苦しんでも、悲しんでも、手放せないほどに大切だった。この相棒は、悠にとってもう、欠けたら痛い一部に成り果てていた。
そんな陽介を、少し迷ってしまったばかりに失うところだったのだ。
間に合って、本当に良かった。
また静かになった世界で、陽介が大仰に溜息をつく。頬を包んだ手が離れると、からかうような視線で悠を見た。
「……今度は、なんかあったら、ちゃんと言えよ。突っ走った俺が一番悪いけどさ」
「うん、それは、返す言葉がない」
今度は悠が頭を下げた。さっきとあべこべの状況に、なんだか笑いがこみ上げる。
やがて、りせの通信が二人に届いたのを合図に、二人は現実へと引き戻された。
FIN.