ビャクヤ×ツクヨミの超SS。
クロニクルモードネタバレしてます。
まだ僕が一人きりだったころは、朝起きるたび信じていた。
あの朗らかで美しい声が僕を呼ぶのを。
あのあでやかで細い指が僕に触れるのを。
『おはよう、私のかわいい白夜。もう朝よ。早く準備をして、一緒に学校に行きましょう』
『うん、ねえさん』
そんな当たり前の幸せが、ある日突然奪われることもあるのだということを、僕はまだ知らなかった。
巨大なトラックに撥ね飛ばされた、華奢な体を今でもはっきりと思い出せる。
僕の名を呼んだ口も、僕に触れたあの指も、もう動かない。
残ったのは、冷たい地面に投げ出された姿の記憶だけだった。
時が経つほどに消えていく、姉さんの笑顔の記憶。
優しい声の記憶。
触れてもらった感覚。
必死に埋めようとした。消えないように捕まえておこうとした。
そして最後に、その空虚を別の何かで埋めることなど、決してできないことを知った。
* * *
「おはよう、ビャクヤ。朝よ」
「…………」
呆然として、ベッドに寝っ転がったまま目を見開いていた。
それをみた『ねえさん』は怪訝そうな顔で僕をじっと見つめている。
「どうしたの? さっさと起きなさい。支度をするの」
きつい口調で僕を攻め立てて、彼女はさっさと階下へ降りて行ってしまう。
ああ、やっぱり似ても似つかない。大切な僕のねえさんの『代わり』。
けれど。
「……うん 今行くよ、ねえさん」
けれど、確かに今僕は幸せだ。
空いた空虚とは違う形をしたキミは、僕に本当の恋を教えてくれたのだから。